社長代行日記
ある日ブラウニーズからTシャツ社長が消えた
ここぞとばかりに傍若無人な振る舞いを始める者達が、小さき声を蹂躙する……
ここは地獄なのだろうか?
この日記は、
平和と秩序を取り戻そうと立ち上がった男の
孤独な戦いの記録である
【社長代行日記 一日目”秩序の旗を立てろ”】
おはようございま~す!
しかし私の元気の良い挨拶は、
朝の事務所に虚しくこだました……
何かがおかしい……と私の直感がそう告げていた。
私はおそるおそる社長席のようすをうかがった……
”出張中”の文字が私の頭を強く揺さぶる。
忘れていた。
社長は今日から関西方面へ遊び出張であった。
私はこの状況に対してだんまりを決め込むこともできた。社長が豪遊旅行出張から戻るまでの間、ちょこんと大人しく席に付いていればいいだけの話だ。
しかしそれでも私は、、、
私の良心は、社長代行を引き受ける事を決意したのであった。
社内の平和のために……
【社長代行日記 二日目”日本人の矜恃”】
社長の不在が二日目となり、早くも社長業の難しさを痛感する。
今日は新キャラクター会議が社内にて行われているのだが……意見がまとまらない。
皆がみな、好き勝手なことをしゃべるだけの会議。
これでは決まる物も決まらない。
「スリットスカート」
「しましまハイソックス」
「ふくよかな胸」
「セミロング」
私の必死な訴えも虚しく、無為な時間だけが流れていく……
そして会議の終わりは、いつだって簡単な一言だ。
あ~無難な感じが良いんじゃないですかね~(笑)
愚かな!!
ちらリズムこそが至高だと何故わからない!
見えそうで見えない……和の趣。
日本の誇るべき、お・も・て・な・しの具現ではないのか?
気持ちが悶々とする。
新キャラクターのスカートから、美しいスリットが消えた……
【社長代行日記 三日目”降り止まぬ雨はない”】
社長が豪遊旅行出張に出てはや三日。予定では翌日まで戻ってこない。
社長代行に音をあげるつもりはないが、いささか心も疲弊してくる。
しかし私は、仮とはいえブラウニーズのトップ。
弱音をそっと飲み込んで、つらくとも業務を続ける。
休む暇もないほどに舞い込む仕事。
私はこの日一日、食事を取ることもできなかった。
遠く離れた土地で遊んでいる仕事をしている社長の代わりとして、頼られることは素直に嬉しい。
が、少々頼られすぎではなかろうか?
「や~めたっ!」
と、私は応接ソファーに身を投げ出した。
このままでは私が彼らをダメにしてしまう。
彼らの自立を促すべく、私はあえて自堕落な態度を演じて見せた。
「社長代行!」という多くの呼びかけに、私は泣く泣く適当な答えを返した。
「あ~はん?テケトーにやっといて~ん♪」
「ばっきゃろ~っ!」
ところが次の瞬間、大地を揺るがす叱責の声が私に向けて飛んできたのだった。
社長代行たる私に大きな声を出せる人物とは……?
私は答えを思いつかぬまま、ゆっくりと顔を上げた。
するとそこには関西で遊んでいる出張中の社長が鬼の形相でこちらを睨んでいたのだった。
「何か悪い予感がしてな……関西出張を早めに切り上げて正解だったわ!
うんぬんかんぬん……ぷんすかぷんすか……」
こうして私の社長代行業務は、遊び仕事から戻ったTシャツ社長の登場により幕を閉じた。
【社長代行日記 ”吉祥寺の落日”より抜粋】
……どうやらTシャツ社長は目の前に展開する事象のみにとらわれ、早急な答えを出したようだ。
すなわち私が社長代行という権力の衣をまとい、思うがままにサボっていた、と。
「それは違うんです」という言葉を私は幾度飲み込んだだろう?
わざわざ知らせなくても良いことがある。
Tシャツ社長が留守の間、ブラウニーズの平和が守られた事実は変わりようがないのだから…
※本スナップコーナーはフィクションであり。
実在の人物・団体・遊び出張とは何らの関わりもなく、
よって執筆者が怒られるいわれはどこにも存在しないのである。